「ブランドプロミスを作りたい」という相談の多くは、一文の言葉を探すところから始まります。けれども、どれだけ整った言葉ができても、営業・提供・サポートの現場がそれを守れなければ、顧客にとっては期待を裏切る材料が一つ増えるだけです。
本記事では、ブランドプロミスを見栄えのよい一文としてではなく、顧客がどの場面で何を期待できるかを定め、それを現場が守り続けるための運用設計として扱います。読み終えたあと、自社で最初の整理会を始められることを目指します。
1. 約束の言葉だけが先に立つと、何が起こるか
Webサイトには「導入後も最後まで伴走します」と書いてある。営業担当は、競合との比較で「最短で使い始められます」と速さを強調する。ところが納品後の問い合わせには、提供部門が「その対応は契約範囲外です」と答える。どの発言も、それぞれの立場では間違っていません。しかし顧客から見ると、同じ会社のなかに三つの別々の約束があるように見えます。
このずれは、理念がないから起きるのではない、と私たちは考えています。多くの場合、顧客に約束する価値と、現場がそれを守るための判断が結びついていないことが原因です。約束の言葉が「誰が、どの接点で、何を優先して守るのか」まで降りていないため、各部門がそれぞれの正しさで動き、そのすき間で顧客の期待がこぼれます。
2. ブランドプロミスは、顧客体験の判断基準
ブランドプロミスは、社内に向けた志や、覚えてもらうための言葉とは役割が異なります。混同しやすい三つと並べると、違いは「誰の視点で、どの場面に使うか」にあります。
自社の「約束」と呼んでいる言葉は、どの行の役割を担っているか。
| 言葉 | 答える問い | 主語 | 現場での使われ方 |
|---|---|---|---|
| 企業理念 | 私たちは何のために存在するか | 会社 | 方針の拠り所になる。個別の対応を決めるには抽象度が高い |
| 自社の目標 | いつまでに、何をどこまで達成するか | 会社 | 優先順位と資源配分を決める。顧客が何を期待できるかは示さない |
| スローガン | どう覚えてもらうか | 伝える側 | 印象を残す。短さが優先され、条件や範囲は省かれる |
| ブランドプロミス | 顧客は、どの場面で、何を期待できるか | 顧客 | 迷ったときに何を優先するかを決める。条件と範囲を伴う |
四つは優劣ではなく役割の違いです。理念やスローガンがあっても、顧客が期待できることと、その範囲が定まっていなければ、現場の判断はそろいません。
つまりブランドプロミスは、誰が、どんな局面で、どのような価値を期待できるかを示すものです。ブランドに意味を持たせる活動(ブランディング)が、顧客の記憶のなかで自社を位置づけるものだとすれば、ブランドプロミスはその意味を、日々の体験で裏づけるための基準にあたります。マーケティングとブランディングの役割そのものは「マーケティングとブランディングの違い」で整理しています。ここからは、定義ではなく、つくり方と守り方に進みます。
3. 作る前に、理想ではなく提供実態を集める
約束の候補は、会議室で考えた理想からではなく、すでに顧客に届いている価値から探します。手がかりは、社内にある次のような記録や記憶です。
- 選ばれた場面——受注や再依頼のとき、顧客が決め手として口にした言葉
- 失注理由——選ばれなかったとき、何が足りないと言われたか
- 問い合わせ——契約の前後で、繰り返し確認される事柄
- 苦情——期待と実際の体験が食い違った場面
- 継続の理由——長く付き合っている顧客が、取引を続けている理由
- 現場の工夫——手順書にはないが、担当者が続けている対応
見るべきは「言いたいこと」ではなく、「繰り返し提供できていること」です。一度だけうまくいった出来事は、約束の根拠にはなりません。複数の顧客、複数の担当者のあいだで同じことが起きているかを確かめます。なお、社内の整理であっても、顧客名や個別の事情は業種・規模・場面の単位まで一般化して書き、共有範囲を限った資料で扱うことをおすすめします。
4. ブランドプロミス運用シートをつくる
集めた実態をもとに、約束を一枚のシートに書き出します。ポイントは、約束する価値だけでなく、それを支える根拠、守れる条件、約束しないこと、守る責任者まで同じ紙に置くことです。とくに「約束しないこと」を空欄にしないでください。範囲が書かれていない約束は、現場が守りようのない約束になります。
8つの欄を、いま提供できている実態だけで埋められるか。
架空の例 記入例は、地域で業務用厨房設備の保守を請け負う会社を想定した架空の例です。実在の企業・支援実績ではありません。
5. 一文にする前に行う、四つの検証
シートを埋めたら、約束の候補を次の四つの問いで点検します。一つでも満たさない場合は、言葉を磨く前に、シートの中身を直します。
約束の候補は、四つの問いのすべてに「はい」と答えられるか。
| 問い | 満たしていない兆候 | 直し方 |
|---|---|---|
| 顧客にとって具体的か | 「安心」「高品質」など、どの場面の何を指すのか分からない言葉だけで書かれている | 場面と、顧客が自分で確かめられる状態の言葉に置き換える |
| 自社ならではの根拠があるか | 根拠の欄に「努力する」「心がける」しか書けない | 根拠を示せる範囲まで、約束を絞る |
| 現在の体制で守れるか | 特定の担当者がいる日だけ守れている | 条件の欄に書く。体制が整うまでは約束に含めない |
| 現場が迷ったときの判断に使えるか | 読んでも、二つの対応のどちらを優先すべきか決まらない | 「何より何を優先するか」が分かる表現にする |
外に出す一文は、四つの検証を通ったシートの要約です。一文が先にあり、シートが後から合わせる順序にはしません。
6. 顧客接点に翻訳する
約束は、接点ごとの行動に翻訳されて、はじめて顧客に届きます。ただし、Web・提案・受注前の説明・提供・問い合わせ対応・継続提案のすべてを一度に変えようとすると、どこも中途半端になりがちです。まずは影響の大きい接点を一つだけ選ぶことをおすすめします。目安は、顧客が意思決定する場面にいちばん近い接点か、すでに約束と実態のずれが表れている接点です。
選んだ接点では、「言葉」「手順」「確認事項」の三つを見直し、責任者を一人決めます。図02の架空の例で、主な接点を翻訳すると次のようになります。
最初に見直す接点はどこか。その接点の責任者は誰か。
| 接点 | 言葉 | 手順 | 確認事項 |
|---|---|---|---|
| Web・提案 | 「受付時に、到着の見込みをお伝えします」と条件つきで書く | 対応エリアと受付時間を同じ箇所に載せる | 約束しないことが、誤解されない形で伝わっているか |
| 受注前の説明 | 当日修理ができない代表的なケースを先に伝える | 説明資料に条件と範囲のページを入れる | 顧客が条件を理解したうえで契約しているか |
| 受付(最初に見直す接点) | 到着の見込みと、当日中の対応可否を必ず伝える | 技術者の居場所と部品の在庫を確認してから回答する | 見込みを伝えずに受付を終えた件がないか |
| 訪問・修理 | 見込みが変わる時点で、理由と次の見込みを伝える | 遅れが分かった時点で受付に共有する | 伝えた見込みと実際の到着がずれた件の理由 |
| 継続提案 | 過去の対応記録をもとに、予防の点検を提案する | 故障の多い設備を定期点検の対象として示す | 提案が約束の範囲を超えていないか |
架空の例 図02と同じ架空の保守会社の例です。この例では、顧客の不安が最も大きい「受付」を最初に見直す接点としています。
一つの接点で、約束を守る手順と確認の仕方が回り始めてから、次の接点へ広げます。接点ごとに責任者がいれば、ずれが見つかったときに誰が直すかで迷いません。
7. 約束と実態のずれを点検する
約束は、決めた時点で完成するものではありません。守れているかどうかは、新しい調査を始める前に、事業のなかですでに取れている情報から確かめられます。
- 問い合わせの内容——約束した事柄について、確認や催促が繰り返されていないか
- 失注理由——約束した価値が、比較の場面で伝わっているか
- 苦情——約束と、実際の体験が食い違った場面はどこか
- 継続率・解約の理由——約束した価値が、続ける理由として挙がっているか
- 紹介時の言及——紹介してくれた顧客が、どんな言葉で自社を説明しているか
どの情報をどう読むかは、業種やデータの取り方によって変わります。万能な目標値はありませんし、数字が動いたとしても、それを約束の効果だけで説明することはできません。まずは同じ項目を、同じ方法で、決まった間隔で見ることから始めます。
ずれが見つかったときは、コピーだけを書き直さないでください。見直す先は、次の三つのどれかです。
- 約束が大きすぎる——約束する価値を、根拠のある範囲まで絞る
- 条件が伝わっていない——Webや説明資料で、条件と約束しないことの伝え方を直す
- 守る手順がない——接点の手順と確認事項、責任者を決め直す
8. 最初の一歩——60分の社内整理会
運用シートを最初から完成させる必要はありません。経営者と、営業・提供・問い合わせ対応の担当者が一人ずつ集まり、60分で次の三つを一つずつ書き出すところから始めます。
60分の整理会で書き出す3項目
- 最も重要な顧客を一つ(最初の15分)売上の大きさだけでなく、今後も選ばれ続けたい顧客像を、業種・規模・担当者の立場まで書く。
- その顧客が自社を選ぶ一場面(次の20分)比較・依頼・継続など、顧客が意思決定する瞬間を一つに絞り、そのとき何に困っているかを添える。
- 今すでに守れている価値(次の20分)その場面で繰り返し提供できていることを一つ。根拠として、実際にあった出来事を一般化して書き添える。
最後の5分で、次に集める実態(問い合わせ、失注理由など)と、その担当者を決めます。三つがそろえば、運用シートの01〜05の下書きになります。
約束は、言葉を決めた日ではなく、現場が守り続けた日数によって信頼に変わっていきます。マーケティングとブランディングの役割を整理しておきたい場合は、あわせて「マーケティングとブランディングの違い」もご覧ください。
