ガソリンは、自動車と物流を支え、地方の生活インフラや災害時の非常用エネルギーとしても働いています。その業界がいま、原油価格と為替の変動、税制の変更、SSの減少、脱炭素に向けた燃料転換に同時に直面しています。本記事では、業界に初めて触れる方にも分かるよう、供給の構造、価格の決まり方、需要の見通し、SSの事業モデル、脱炭素への対応を順に整理します。
01ガソリン業界の全体像と構造
エネルギー業界は大きく、石油・電気・ガスの3分野で構成されています。ガソリンは石油系エネルギーの一種で、主に自動車用燃料として使われます。都市ガスや電力が家庭内のインフラを支えるのに対し、ガソリンは交通・輸送のインフラを支える存在です。
日本のガソリン供給は、「元売り会社 → 特約店(卸売) → ガソリンスタンド(小売)」の三層構造です。元売り会社は海外から原油を輸入して自社製油所で精製し、特約店やSSに供給します。ENEOS、出光興産、コスモ石油の3社が主軸です。
SS数は1994年度末の60,421か所をピークに減少し、2024年度末は27,009か所です(石油連盟)。
元売り・特約店・販売店という流れはガス業界とも共通し、エネルギーを安定して効率よく届ける役割を果たしています。SSが価格以外で差をつけられるのは、顧客と直接接する最後の段です。
ガス業界の構造は、「ガス業界の基礎知識」で整理しています。
02ガソリン価格の仕組みと構成要素
ガソリンの小売価格は、原料コスト・流通と精製のコスト・税金の3要素で構成されます。日本は原油をほぼ全量輸入に頼っており、ドル建ての原油価格と為替の影響を強く受けます。円安になると、同じドル価格でも円換算の輸入価格が上がり、国内のガソリン価格も上がります。
一方、税の多くは1リットルあたりの定額です。ガソリンにかかる揮発油税・地方揮発油税は、2025年12月31日に暫定税率(25.1円/L)が廃止され、合計53.8円/Lから本則の28.7円/Lになりました。
税の多くは1Lあたりの定額なので、原油や為替が動いても税額は変わりません。店頭価格の変化を見るときは、まず市況と制度の変化を切り分け、残った部分を自店の値付けとして評価します。
出典:石油連盟「今日の石油産業2023」/国税庁「揮発油税等の特例税率の廃止について」/財務省「自動車関係諸税・エネルギー関係諸税の概要」/内閣府「ガソリン・軽油の暫定税率廃止について」/国税庁「消費税および地方消費税の税率」
03ガソリン需要の推移と背景
国内のガソリン需要は長期的に減っています。ガソリンの販売量は2004年度の約6,148万kLがピークでした。経済産業省の需要見通しでは、2022年度の実績は44,774千kL、2028年度は39,065千kLまで減る見込みで、2023〜2028年度を通じて年平均▲2.6%の減少が見込まれています。
2023〜2028年度の見通しは年平均▲2.6%、期間全体で▲12.2%。2024年4月公表の見通しです。
減少の主な理由は次の4つです。
- 燃費性能の向上:ハイブリッド車(HV)などの普及で、同じ距離に必要な燃料が減っている
- EV(電気自動車)の普及:ガソリンを使わない車が増えている
- 少子高齢化・人口減少:自動車の保有台数そのものが減る方向にある
- 都市化・シェアリングの進展:交通手段が多様化し、カーシェアが広がっている
地方では今もガソリン需要が比較的高い一方、都市部では公共交通機関が発達しているため使用頻度が下がる傾向があります。
出典:経済産業省「2024〜2028年度石油製品需要見通し」/日本エネルギー経済研究所 石油情報センター石油産業解説パンフレット(2014年11月、2004年度のピーク値)
04ガソリンスタンド(SS)のビジネスモデルの変化
従来のSSは「燃料販売で利益を出す」モデルが基本でした。しかし燃料そのものの利益率が下がり、燃料だけで持続的に収益を確保することは難しくなっています。
1998年4月に有人セルフ方式のSSが導入されて以降、セルフ化が進み、人件費を抑えながら価格競争力を保てるようになりました。2024年度末時点で、SS全体の約4割(10,915か所)がセルフSSです。
燃料収益の低下を補うため、洗車・整備・物販などの「油外収益」の強化が進んでいます。SSは単なる給油所から、カーライフサポートの総合拠点へと変わりつつあります。
燃料は来店を生む入口、油外収益は利益の柱、サービスは地域での存在理由です。燃料の販売量が縮むほど、来店した顧客を油外収益につなげる導線の設計が収益を左右します。
出典:石油連盟「SS数の推移」(2024年度末)/ベストカーWeb「人手不足で誕生したセルフスタンド」/「【ガソリンスタンドの生き残り策】現状とこれからの戦略」
05脱炭素社会への対応と、SS経営の論点
バイオ燃料と合成燃料の導入
政府は、2030年度までに最大濃度10%の低炭素ガソリン(E10)の供給開始を目指し、2028年度をめどに一部地域で先行導入する方針です。さらに2040年度からは、最大濃度20%(E20)の供給開始を追求するとしています。将来的にはe-fuel(合成燃料)の活用も視野に入っています。
石油元売り各社も、供給体制や製油所の対応を進めています。車両側では、2030年代のできるだけ早期に、乗用車の新車販売でE20対応車の比率を100%にすることが目標に掲げられ、燃料と車両の両面で低炭素化が進みます。SSの設備はE3水準までの燃料に対応できると考えられており、それを超える場合はタンクや計量機の腐食防止策が必要になります。
再生可能エネルギーの活用とインフラ整備
石油業界では、水素や再生可能エネルギーを使った製油工程、CO₂回収技術(CCS/CCU)、EV充電ステーションの設置などを進めています。一部のSSでは、災害時の電源供給拠点とするため、太陽光発電や蓄電池の導入も進んでいます。ENEOSは2022年11月の発表で、急速充電器を2025年度時点で1,000基以上、2030年度時点で数千基〜10,000基設置する計画を示しています。
SS経営にどうつながるか
脱炭素、需要の変化、人材不足は別々の話に見えますが、SSの経営では設備投資・収益構造・人員配置という同じ論点に集まります。
サービスステーションの新しい姿
SSは、燃料の供給拠点にとどまらず、災害対応(非常用電源・給水)、地域住民の見守りや買い物支援、EV社会の充電インフラ、地場産品の販売・情報発信といった地域の拠点としての役割を担い始めています。今後は、地域社会と共生するサービス基盤としての役割が一層求められるでしょう。
出典:資源エネルギー庁「バイオエタノールの導入拡大をめざして、課題解決のアクションプラン策定」/ENEOSニュースリリース(2022年11月21日)/石油連盟「石油業界のカーボンニュートラルに向けたビジョン」/J-CAST「出光興産はガソリンスタンドをどう変える?」
日本のガソリン業界は、多層の供給構造を持ち、価格は原油・為替・税制など多くの外部要因に左右されます。需要が縮む中で、SSは燃料収益への依存を減らし、油外収益の強化やセルフ化を進めてきました。そして脱炭素に向けて、E10・E20・e-fuel、EV・水素インフラ、災害対応型SSへの転換という変化が続きます。
燃料の量で競う時代から、来店した顧客と地域にどんな価値を返すかで選ばれる時代へ。SSの経営は、その前提から組み立て直す段階にあります。
まず確認する3項目
- 直近12か月の粗利を、燃料・油外・サービスに分けて出せるか出せなければ、まず燃料・油外・サービスに分けて集計できる形にする。
- 自店の燃料販売量の前年比は、全国の見通し(年平均▲2.6%)より良いか悪いか悪ければ、燃料以外の柱の強化を優先順位の上に置く。
- タンク・計量機の更新時期と、E10対応に必要な設備を把握しているか元売り・特約店に、地域の供給計画と合わせて確認する。
