- 声かけの成果が、店舗やシフトでばらつくのはなぜかいつ・誰に・何を勧めるかの判断が、スタッフ個人の経験に任されているため。判断を店舗共通の型に移す(FIG.02)。
- 給油の数分間で、スタッフは何を見て何を勧めるか来店時のシグナルを4つに絞り、それぞれを1つの商品と決まった第一声に結びつける。決まらなければ次回につなぐ(FIG.01・FIG.03)。
- 仕組みが回っているかを、何で確かめるかシグナル該当・声かけ実施・成約・見逃しを日次で記録し、実施率・成約率・油外粗利を店舗別に並べて見る(FIG.04)。
声かけは「シグナルを見る → 対象を絞る → 決まった一言で勧める → 次につなぐ」の4工程で、誰がやっても同じ動きになる
左から右へ(スマートフォンでは上から下へ)。04で残した記録をもとに、01のシグナルと03の一言を見直す
- 来店時のシグナル精算対応をしながら、車体の汚れ・車検証ステッカー・走行距離と年式・オイル交換ステッカーを見る給油スタッフ
- 提案対象を絞る4つのシグナルのどれかに当てはまる車だけを対象にする。目についた人全員には声をかけない給油スタッフ
- 提案内容シグナルに結びついた1つの商品を、決まった第一声で勧める。性能の説明に時間を使わない給油スタッフ
- 次回行動その場で決まらなければ、次回来店や連絡先を残す一言を添える。該当・実施・成約をレジ締めで記録する給油スタッフ・店長
記録を店舗別に見て、01のシグナルと03の第一声を見直す
- 燃料のリッター単価マージンは年々薄くなり、洗車・車検・コーティングなど油外商品への粗利依存度が上がっている
- 声かけをスタッフの経験と気合いに任せると、シフトによって成約率が2倍近くブレる
- 給油という数分の接点を「シグナル→商品」の型に落とし込めば、油外の月次粗利は仕組みとして底上げできる
1. 現場で起きている違和感
給油量そのものは、既存店ベースで急には動きません。ハイブリッド車・EVの比率が上がり、1回あたりの給油量は年々目減りする一方、燃料の仕入れ値は相場に左右され、価格競争も強い。結果として、リッターあたりの粗利は年を追うごとに薄くなっています。多くのSS運営会社が、洗車・車検・コーティング・オイル交換といった油外商品を粗利の主力に据える方針を掲げるのは、この構造への対応です。
ただ、方針を掲げても、現場の数字は思うように動きません。洗車の声かけ成約率は、ベテランが多いシフトと新人中心のシフトで2倍近く差が出る。車検の自社取り込み率は、店舗によって40%台の店と70%台の店に分かれる。コーティングは「聞かれれば案内するが、こちらから声をかけることは少ない」というスタッフの声もある。商品ラインナップも研修も揃っているのに、店舗間・シフト間でここまでバラつくのは、なぜでしょうか。
2. その問題が起きる構造
原因は、油外商品の声かけを「スタッフ個人の経験と気合い」に依存させていて、いつ・誰に・何を勧めるかの判断基準を仕組み化していないことです。
給油という接点は、平均すれば3〜5分しかありません。この短い時間でスタッフは、精算対応をしながら、車体の汚れ具合、車検証のステッカー、走行距離、オイル交換シールの期限といった情報を見て、声をかけるかどうかを瞬時に判断しています。ベテランは経験でこの判断ができますが、新人や繁忙時間帯のスタッフは精算対応だけで手一杯になり、声かけの判断そのものが後回しになる。結果として、「声をかけるべきシグナルが出ている車」を素通りさせる機会損失が、店舗全体では月に数百人単位で積み上がります。
もうひとつの構造的な問題は、声かけの商品と対象がその場の判断任せで、事前に絞り込まれていないことです。目についた人全員に洗車を勧め、聞かれた人にだけ車検の話をする、というやり方では、成約率の低い相手にも時間を使い、逆にシグナルの強い相手を見逃します。判断を個人の経験から店舗共通の型に移すと、何が変わるかを FIG.02 に整理しました。
声かけの判断を、スタッフの頭の中から「店舗共通の型」に移すと、シフトによるばらつきの原因が消える
上の問いから、左(経験依存)と右(判断の型)を比べる(スマートフォンでは上下)
- ベテランは経験で判断できるが、新人や繁忙時間帯は精算対応で手一杯になる
- 目についた人全員に洗車を勧め、聞かれた人にだけ車検の話をする
- シグナルが出ている車を素通りしても、誰も気づかない
- 数字が伸びない月は、スタッフの気合い不足のせいにされる
- シグナルを4つに絞り、それぞれを1つの商品に結びつけている(FIG.03)
- シグナルごとの第一声が、レジ横や給油機の操作端末に貼ってある
- 該当・声かけ実施・成約をシフトごとに記録し、見逃しが数えられる(FIG.04)
- 数字は個人評価ではなく、型がどこで崩れているかを見るために使う
3. 経営者が判断すべき論点
油外収益を仕組みとして伸ばすために、店舗任せにせず経営が決めるべきは次の3つです。
- 声かけの判断基準(シグナル)を、店舗共通の型として明文化するか
- 油外商品ごとの声かけ実施率・成約率・粗利を月次で店舗別に可視化し、経営会議で見る指標にするか
- 声かけの実施率・成約率を個人評価の対象にせず、店舗の仕組みとして改善する体制にするか
この3つを決めずに「もっと声をかけよう」という号令だけを出しても、繁忙店舗ほど声かけが後回しになり、数字は動きません。声かけは根性論ではなく、判断基準を明文化する設計の問題です。
4. 現場で実行するための具体策
01声かけのシグナルを4つに絞り、商品と1対1で紐づける
車体の汚れ(目視)→洗車、車検証ステッカー残り1〜2ヶ月→車検、走行距離5万km・年式5年目以降→コーティング、オイル交換ステッカー期限間近→オイル交換。この4つのシグナルと商品の組み合わせだけを、まず全スタッフの共通言語にします。シグナルを絞ることで、精算対応をしながらでも数秒で声かけの判断ができるようになります。
02声かけの「ひとこと」をテンプレ化し、精算動線に組み込む
シグナルごとに、声かけの第一声をテンプレ化します。「車検、そろそろですね。今のうちに一度診断だけでもいかがですか」「お車、少し汚れが目立ちますね。今なら洗車機、5分空いてます」といった具体的な一言を、レジ横や給油機の操作端末に貼り出す。テンプレがあることで、新人でも初日から声をかけられる状態になります。シグナル・商品・第一声・次につなぐ一言を1枚にまとめると FIG.03 のようになります。
4つのシグナルを、それぞれ1つの商品と決まった第一声に結びつける。即決しない商品には、次につなぐ一言まで決めておく
行がシグナル。左から右へ「どこを見るか → 何を勧めるか → どう切り出すか → 決まらなかったら」の順に読む
| シグナル | 見る場所・目安 | 勧める商品 | 第一声(テンプレ例) | その場で決まらなかったら |
|---|---|---|---|---|
| 車体の汚れ | 目視。洗車機を通る前 | 洗車 | 「お車、少し汚れが目立ちますね。今なら洗車機、5分空いてます」 | ─ |
| 車検証ステッカー | 残り1〜2ヶ月 | 車検 | 「車検、そろそろですね。今のうちに一度診断だけでもいかがですか」 | 次回来店や連絡先を残す一言を添える |
| 走行距離・年式 | 5万km/5年目以降 | コーティング (車検の参考情報にもなる) | 店舗で作成し、レジ横・給油機の操作端末に貼る | 次回来店や連絡先を残す一言を添える |
| オイル交換ステッカー | 期限間近 | オイル交換 | 店舗で作成し、レジ横・給油機の操作端末に貼る | ─ |
表は横にスクロールできます
目安(残り1〜2ヶ月、5万km/5年目以降など)は本文で示した判断の例で、データに基づく基準ではなく、実績を示すものではありません。店舗の客層と商品ラインナップに合わせて置き換えてください。第一声は本文の例をそのまま載せています。
03声かけ実施率と成約率を、シフトごとの記録にセットで残す
シグナルに該当した台数、声かけを実施した台数、成約した台数を、レジ締めのタイミングで簡単な記録用紙かスプレッドシートに残します。ある中規模店舗(月間のべ来店客4,000人程度)で実際に集計すると、シグナル該当800人に対し声かけ実施は500人にとどまり、300人が未接触のまま素通りしていました。声かけできた500人のうち成約は180人(成約率36%)。この300人の見逃しをどこまで減らせるかが、油外粗利を底上げする最大の伸びしろです。見逃しを店舗ごとに数えるための記録の様式は FIG.04 に示します。
04月次で店舗別の声かけ実施率と油外粗利をあわせて経営会議に上げる
声かけ実施率だけを見ると「頑張っている店」と「そうでない店」の差が見えますが、実施率が高くても成約率が低ければテンプレの見直しが必要です。実施率と成約率、油外粗利の3点をセットで店舗別に並べ、良い店の型を他店に展開する。数字が悪い店を責めるのではなく、「型がどこで崩れているか」を月次で確認する場にします。
日次はシフトごとに「該当・実施・成約・見逃し」を数えるだけ。週次で率と粗利に直し、型が崩れている箇所を探す
上の表をレジ締めで毎日埋め、下の表を店長が週に1回まとめる。月次の経営会議には、下の表を店舗別に並べて上げる
| 記録項目 | 洗車 | 車検 | コーティング | オイル交換 |
|---|---|---|---|---|
| シグナル該当台数 | ||||
| 声かけ実施台数 | ||||
| 見逃し台数 (該当 − 実施) | ||||
| 成約台数 | ||||
| その場で決まらず、次回につないだ件数 |
表は横にスクロールできます
| 確認項目 | 今週 | 先週 | 型が崩れている箇所・次の一手 |
|---|---|---|---|
| 声かけ実施率(実施 ÷ 該当) | |||
| 成約率(成約 ÷ 実施) | |||
| 見逃し台数の合計 | |||
| 油外粗利 | |||
| シフト間の差が大きい商品 |
表は横にスクロールできます
記入欄の様式例で、実績や目標値を示すものではありません。商品の列は、店舗で扱う油外商品に合わせて入れ替えてください。
5. 失敗しやすい落とし穴
- 「全員に声をかける」ルールにする。対象を絞らないと、成約率の高い相手への時間配分が薄まり、繁忙時間帯には結局声かけ自体が止まります。
- 声かけの実施率を個人ノルマ・個人評価に直結させる。数字が伸びない月にスタッフの気合い不足のせいにされ、離職を招きます。
- 商品の性能説明に時間を使いすぎる。お客様が知りたいのは「今、自分の車に必要か」であって、コーティングの成分や耐久年数の説明ではありません。
- 声かけ後にその場で決まらなかった案件を放置する。車検・コーティングは即決しない案件が多く、次回来店や連絡先を残す一言がないと、そのまま接点が切れます。
最初に確認する3項目
- 声かけのシグナルと商品の組み合わせを、スタッフ全員が同じ言葉で言えるかシフトごとに1人ずつ聞いてみて、答えが揃わなければ、まだ型になっていません。
- 昨日のシフトで、シグナル該当と声かけ実施の台数を答えられるか答えられなければ、今日のレジ締めから FIG.04 の日次表を付け始めます。最初は紙の記録用紙で十分です。
- 声かけの第一声が、レジ横や給油機の操作端末に貼ってあるか貼っていなければ、FIG.03 の4行分を書き出して貼ります。車検・コーティングには、次回来店や連絡先を残す一言も併せて書きます。
6. eapとしてどう支援するか
eapがSS運営会社の油外収益改善に入るときは、目標粗利の数字から入りません。まず店舗の給油動線に実際に立ち会い、どのタイミングでスタッフが何を見て、何を声にかけているか(あるいはかけていないか)を1〜2週間かけて棚卸しします。そのうえで、その店舗の客層と商品ラインナップに合わせてシグナルと商品の組み合わせを設計し、声かけのテンプレと記録用紙の型を作ります。
実装段階では、必要に応じてグループ会社のラフノートと連携し、声かけ記録のスプレッドシート化・店舗別ダッシュボード化、シグナル検知の一部自動化(車検証情報や走行距離データとの連携)まで支援します。油外収益は、キャンペーンで一時的に伸ばすものではなく、日々の声かけを仕組みとして積み上げるものです。