- 燃料のリッター単価マージンは年々薄くなり、洗車・車検・コーティングなど油外商品への粗利依存度が上がっている
- 声かけをスタッフの経験と気合いに任せると、シフトによって成約率が2倍近くブレる
- 給油という数分の接点を「シグナル→商品」の型に落とし込めば、油外の月次粗利は仕組みとして底上げできる
1. 現場で起きている違和感
給油量そのものは、既存店ベースで急には動きません。ハイブリッド車・EVの比率が上がり、1回あたりの給油量は年々目減りする一方、燃料の仕入れ値は相場に左右され、価格競争も強い。結果として、リッターあたりの粗利は年を追うごとに薄くなっています。多くのSS運営会社が、洗車・車検・コーティング・オイル交換といった油外商品を粗利の主力に据える方針を掲げるのは、この構造への対応です。
ただ、方針を掲げても、現場の数字は思うように動きません。洗車の声かけ成約率は、ベテランが多いシフトと新人中心のシフトで2倍近く差が出る。車検の自社取り込み率は、店舗によって40%台の店と70%台の店に分かれる。コーティングは「聞かれれば案内するが、こちらから声をかけることは少ない」というスタッフの声もある。商品ラインナップも研修も揃っているのに、店舗間・シフト間でここまでバラつくのは、なぜでしょうか。
2. その問題が起きる構造
原因は、油外商品の声かけを「スタッフ個人の経験と気合い」に依存させていて、いつ・誰に・何を勧めるかの判断基準を仕組み化していないことです。
給油という接点は、平均すれば3〜5分しかありません。この短い時間でスタッフは、精算対応をしながら、車体の汚れ具合、車検証のステッカー、走行距離、オイル交換シールの期限といった情報を見て、声をかけるかどうかを瞬時に判断しています。ベテランは経験でこの判断ができますが、新人や繁忙時間帯のスタッフは精算対応だけで手一杯になり、声かけの判断そのものが後回しになる。結果として、「声をかけるべきシグナルが出ている車」を素通りさせる機会損失が、店舗全体では月に数百人単位で積み上がります。
もうひとつの構造的な問題は、声かけの商品と対象がその場の判断任せで、事前に絞り込まれていないことです。目についた人全員に洗車を勧め、聞かれた人にだけ車検の話をする、というやり方では、成約率の低い相手にも時間を使い、逆にシグナルの強い相手を見逃します(下図)。
4つのシグナルを、それぞれ1つの商品に結びつけます。「目についた人全員に何かを勧める」のではなく、シグナルが出た人にだけ、決まった商品を勧めるのがこの型のキモです。走行距離・年式のシグナルは車検の参考情報にもなりますが、声かけの主対象はコーティングに絞ります。対象を絞ることで、精算対応をしながらでも数秒で声かけの判断ができるようになります。
3. 経営者が判断すべき論点
油外収益を仕組みとして伸ばすために、店舗任せにせず経営が決めるべきは次の3つです。
- 声かけの判断基準(シグナル)を、店舗共通の型として明文化するか
- 油外商品ごとの声かけ実施率・成約率・粗利を月次で店舗別に可視化し、経営会議で見る指標にするか
- 声かけの実施率・成約率を個人評価の対象にせず、店舗の仕組みとして改善する体制にするか
この3つを決めずに「もっと声をかけよう」という号令だけを出しても、繁忙店舗ほど声かけが後回しになり、数字は動きません。声かけは根性論ではなく、判断基準を明文化する設計の問題です。
4. 現場で実行するための具体策
Step 01声かけのシグナルを4つに絞り、商品と1対1で紐づける
車体の汚れ(目視)→洗車、車検証ステッカー残り1〜2ヶ月→車検、走行距離5万km・年式5年目以降→コーティング、オイル交換ステッカー期限間近→オイル交換。この4つのシグナルと商品の組み合わせだけを、まず全スタッフの共通言語にします。シグナルを絞ることで、精算対応をしながらでも数秒で声かけの判断ができるようになります。
Step 02声かけの「ひとこと」をテンプレ化し、精算動線に組み込む
シグナルごとに、声かけの第一声をテンプレ化します。「車検、そろそろですね。今のうちに一度診断だけでもいかがですか」「お車、少し汚れが目立ちますね。今なら洗車機、5分空いてます」といった具体的な一言を、レジ横や給油機の操作端末に貼り出す。テンプレがあることで、新人でも初日から声をかけられる状態になります。
Step 03声かけ実施率と成約率を、シフトごとの記録にセットで残す
シグナルに該当した台数、声かけを実施した台数、成約した台数を、レジ締めのタイミングで簡単な記録用紙かスプレッドシートに残します。ある中規模店舗(月間のべ来店客4,000人程度)で実際に集計すると、シグナル該当800人に対し声かけ実施は500人にとどまり、300人が未接触のまま素通りしていました。声かけできた500人のうち成約は180人(成約率36%)。この300人の見逃しをどこまで減らせるかが、油外粗利を底上げする最大の伸びしろです(下図)。
シグナル該当800人のうち、声かけできたのは500人。残り300人は「シグナルは出ていたのに、声をかけられなかった」見逃しです。声かけできた500人の成約率は36%あるため、見逃しの半分でも拾えれば、月あたり数十件・数十万円の粗利が積み上がる計算になります。まず記録を取り、見逃しの実数を店舗ごとに見えるようにするのが最初の一歩です。
Step 04月次で店舗別の声かけ実施率と油外粗利をあわせて経営会議に上げる
声かけ実施率だけを見ると「頑張っている店」と「そうでない店」の差が見えますが、実施率が高くても成約率が低ければテンプレの見直しが必要です。実施率と成約率、油外粗利の3点をセットで店舗別に並べ、良い店の型を他店に展開する。数字が悪い店を責めるのではなく、「型がどこで崩れているか」を月次で確認する場にします。
5. 失敗しやすい落とし穴
- 「全員に声をかける」ルールにする。対象を絞らないと、成約率の高い相手への時間配分が薄まり、繁忙時間帯には結局声かけ自体が止まります。
- 声かけの実施率を個人ノルマ・個人評価に直結させる。数字が伸びない月にスタッフの気合い不足のせいにされ、離職を招きます。
- 商品の性能説明に時間を使いすぎる。お客様が知りたいのは「今、自分の車に必要か」であって、コーティングの成分や耐久年数の説明ではありません。
- 声かけ後にその場で決まらなかった案件を放置する。車検・コーティングは即決しない案件が多く、次回来店や連絡先を残す一言がないと、そのまま接点が切れます。
6. eapとしてどう支援するか
eapがSS運営会社の油外収益改善に入るときは、目標粗利の数字から入りません。まず店舗の給油動線に実際に立ち会い、どのタイミングでスタッフが何を見て、何を声にかけているか(あるいはかけていないか)を1〜2週間かけて棚卸しします。そのうえで、その店舗の客層と商品ラインナップに合わせてシグナルと商品の組み合わせを設計し、声かけのテンプレと記録用紙の型を作ります。
実装段階では、必要に応じてグループ会社のラフノートと連携し、声かけ記録のスプレッドシート化・店舗別ダッシュボード化、シグナル検知の一部自動化(車検証情報や走行距離データとの連携)まで支援します。油外収益は、キャンペーンで一時的に伸ばすものではなく、日々の声かけを仕組みとして積み上げるものです。