生成AIの登場で、DX(業務のデジタル化)の前提が変わり始めています。これまで費用対効果の観点で「わざわざシステムにするほどではない」とされてきた小さな業務まで、いまはAIで仕組み化できるようになりました。問われているのは「どのAIツールを導入するか」ではなく、自社の業務構造そのものを見直し、AIを前提に仕事の進め方を組み直せるか——です。本稿では、eapが実務で使っている「AI Operating Model」という考え方を、会社の動かし方の設計図として整理します。
01なぜ今、企業は業務構造を見直すのか
これまでのDXは、ERP、CRM、勤怠、会計、販売管理など、多くの社員が毎日使い、投資に見合う効果が見込める基幹業務を中心に進んできました。これらは今も企業の土台であり、しっかり入れておくべきものです。
ところが会社の実務は、それだけでは回っていません。月次レポートの作成、データの集計、情報の整理、顧客ごとの個別対応、Slackの確認、Excelの更新——一つひとつは小さいけれど大量に存在し、現場の時間を毎日奪っている業務があります。この領域がほとんどシステム化されてこなかった理由はシンプルで、費用対効果が合わなかったからです。一人か二人しか関わらない業務のためにソフトを開発して保守するのは割に合わず、現場は手作業とその人固有のやり方でしのぐしかありませんでした。
AIは、この前提を変えます。ソフトを一から作るコストが下がったことで、関わる人数が少なく、頻度も高くない業務まで、仕組みにして自動化できるようになってきました。私たちはこれを、大人数向けのシステムに対して「一人のための業務システム」と呼んでいます。まず、自社のどこにその業務が埋もれているかを地図にします。
隣の論点との線引きもしておきます。別稿「AIにも原価管理が必要になってきた」では「どの業務に、どのモデルを、いくらの原価で使うか」を扱いました。本稿はその手前——そもそも、どの業務を仕組みに変えるべきかという業務構造の設計です。原価の最適化は、仕組みに変える業務が決まってから効いてきます。
02Before AI / After AI — 何が変わるのか
違いは「AIツールを使うかどうか」ではなく、業務が属人化のまま止まるか、改善が回り続けるかという構造の違いです。担当者・情報・意思決定・改善の四つで並べると、どこが変わるかが見えます。
03AI Operating Modelとは何か
AI Operating Modelは、AIツールの名前でも、特定の製品でもありません。会社の動かし方に関する、一つの考え方です。
設計し直す対象は3つです。業務は、誰が、何を、どの順番でやるか。人の工程とAIに任せる工程を引き直します。意思決定は、どの判断を人が握り、どこまでをAIの下ごしらえに任せるか。その境界線を決めます。情報活用は、社内に散った情報をAIが扱える形に整え、必要なときに引き出せるようにします(冒頭の要約図)。
「AIツールを導入する」だけで止まると、たいてい何も変わりません。道具が一つ増えるだけで、仕事の流れは前のままだからです。道具を足すのではなく、流れを引き直す。それが、導入とAI Operating Modelの違いです。
04eap AI Operating Model Framework — 5つのステップ
eapは、次の5つのステップで業務構造を組み直します。順番に意味があります。可視化と構造化を飛ばして「とりあえずAIを入れる」から始めると、たいてい定着しません。
いちばん迷いやすいのはStep3・選定です。頻度が高く、工数がかかり、失敗しても致命的でなく、やり方が繰り返せる業務から着手する。この条件を「効果・実現性・リスク」の三列に置き換えると、候補を同じ物差しで並べられます。
05eapが自社で実践しているAI活用
私たち自身の業務での例を挙げます。いずれも派手な自動化の話ではありません。大事なのは「便利になった」ことではなく、誰の作業がどこへ移り、何が会社の資産として残るようになったかという構造の変化です。顧客名や機密に触れる情報は含みません。
議事録の作成とタスクの整理を、その都度人が手作業で行う。誰がやるかで粒度が変わり、記録は個人の手元に散らばる。
要点と宿題の整理を仕組みに任せ、人は「何を決めたか」の確認に集中する。記録は組織のナレッジとして一箇所に蓄積される。
複数のデータを集めて突き合わせ、資料の形にするまでを人が担う。時間がかかるうえ、担当者が変わると作り方も変わる。
データの取得・整理・レポート化までを仕組みに乗せ、人は数字の意味を読み、次の打ち手を考える側に回る。
顧客とのやり取りや状況が、メール・チャット・表計算に分散する。全体像を把握するのに、探す時間がかかる。
散らばった情報を整理してつなぎ、営業活動にそのまま使える状態にする。判断に必要な材料が、すぐ引き出せる。
3つに共通するのは、人の仕事が「作業」から「判断」へ移っていることです。整える・集める・探すといった手前の工程を仕組みに預け、人は決める仕事に時間を使う。作業の記録は、その人固有のやり方ではなく会社に残る形になる。AI Operating Modelが変えているのは、便利さではなく、この配置です。
06AI時代に、本当に効いてくる能力
差がつくのは「AIツールを使えるか」ではなく、「自社の業務を理解し、改善すべき対象を見つけ、それをAIで仕組みに変換できるか」です。ツールは誰でも同じものが使えます。差は、その手前と後ろにつきます。
私たちが重要だと考えているのは4つです。業務理解——自社の仕事を工程まで分解して見られること。要件定義——現場の暗黙知を、AIが扱える形にほどいて言語化できること。仕組み化——それを繰り返し使える形に落とし込めること。継続改善——使われ方を見て直し続けられること。
多くの業務は、担当者が「なんとなくこうしている」という暗黙知で回っています。そのやり方を、AIが同じ判断を再現できるところまで言葉にする作業は、AIの性能が上がっても自動では埋まりません。むしろAIが賢くなるほど、「何を、どういう基準でやってほしいか」を定義できる人とできない人の差が広がります。仕組み化がうまくいかない原因の多くは、AIの限界ではなく、要件が言語化できていないことにあります。
だからこの能力は、外注で買い切るものではなく、会社の中に少しずつ育てていくものです。eapが支援に入るときも、丸ごと巻き取って終わりにせず、「業務を分解し、暗黙知をほどく」やり方が社内に残ることを目指します。
07eapの提供価値 — 分析から実装、継続改善まで
私たちは「AIの使い方」だけを売る立場ではありません。事業の中身を理解したうえで、企業の業務と仕組みをAIを前提に組み直す——そこに立っています。支援は、業務分析(どこに手作業と属人化があるか)、AI活用設計(どの業務を、どう仕組みにするか)、業務フロー改善(人とAIの工程を引き直す)、システム開発とAIエージェント構築(実際に動くものを作る)、継続改善(使われ方を見て直す)までを、一つの線でつなぎます。
この一気通貫を支えているのが、グループ体制です。2025年12月にグループ化したラフノート株式会社(Ruby on Rails での開発20年)と組むことで、「考え方の設計」で止まらず、業務に組み込むシステムやAIエージェントの実装・運用まで自社で巻き取れます。検証だけの会社でも、実装だけの会社でもない、という点が私たちの立ち位置です。
AI Operating Modelは、流行りの技術を追う話ではありません。AIを前提に、仕事の進め方そのものを設計し直すという、経営の話です。私たちのパーパス「可能性を、実現する力に変える」は、これまで手が届かなかった小さな業務まで仕組みに変え、会社の力に変えていくこの領域にも、そのまま当てはまります。
本稿は、日経クロステック「不可能だった『ロングテール業務』のシステム化、AI活用で突破口開く」(中田敦、2026年4月掲載 / 2026年9月25日確認)が提起する市場背景を踏まえ、eap独自のメソッドとして再構成したものです。
まず確認する3項目
- 一人か二人が手作業で回している業務を、5つ書き出せるか「休むと止まる」「毎月同じ資料」「二重転記」に当てはまる業務を探す。
- その5つを、効果・実現性・リスクの三列で並べたか三つをそれぞれ●・▲・─で評価し、三列とも●の業務を一つ選ぶ。
- 選んだ業務の判断基準を、担当者以外が言葉で説明できるか説明できなければ、実装の前に暗黙知の構造化(Step2)から始める。
