- いまのKPIシートに、現場が動かせる数字はあるか経営の結果指標と現場の行動指標を分けて並べ、行動指標の層が空いていないかを見る(FIG.01)。
- シートを「報告用」から「次の一手を決める道具」に変えるには、何を変えるか載せる数字・更新のタイミング・欄・会議の時間配分の4点を変える。項目を足すのではなく、行動KPIを5つ以内に絞り、次の一手・担当・期限の欄を足す(FIG.02・FIG.03)。
- 数字が悪かった週に、会議で何を決めるか数字の鮮度 → 差分の場所 → 量か率か、の順に確かめてから、今週の一手・担当・期限を決める(FIG.04)。
経営が見る結果指標は、現場が今週動かせる行動指標の積み上げとして、数週間遅れて動く
下の層から上の層へ効く。上の層ほど結果が出るのが遅く、下の層ほど今週の行動で動かせる
会社全体で1枚
会社の健康状態を判断する数字(遅行指標)。経営会議で月次に確認する。現場がこの数字だけを渡されても、明日の行動は決まらない
拠点長が見る
行動の数週間後に動く数字。拠点ごとの差が出始める層で、週次シートでは確認用に1〜2行へ圧縮する
拠点ごとに1枚
今週の動きが直接効く数字(先行指標)。毎週その場で数えられ、結果につながると現場が納得できるものを拠点あたり5つ以内に絞る。週次シートの主役
指標名は記事で挙げている例です。自社の事業に合わせて、行動指標から結果指標までのつながりを置き換えてください。
- KPIシートが使われないのは、項目の不足ではなく「経営の結果数字」しか載っていないため。現場が明日動ける行動数字がない
- 手集計でシートが出てくるのが週半ば。見る頃には先週の話で、現場が「今週の打ち手」に使えない
- シートが「報告のため」に作られ「次の一手を決めるため」になっていない。次アクション・担当・期限の欄を足すと、週次MTGで使われ始める
1. 現場で起きている違和感
多拠点・営業所型の会社では、KPI管理の必要性が早い段階で意識されます。拠点が5つ、6つと増えると、経営層は各拠点の状況を横並びで見たくなる。そこで「全拠点共通のKPI管理シート」をつくります。売上、粗利、達成率、新規件数、解約数——項目は30近くまで増え、毎月きれいに集計されたシートが経営会議に出てきます。
ところが、そのシートを現場で開くと、様子が違います。週次の営業所MTGで画面に映すものの、所長が数字を上から読み上げて終わり。60分のMTGのうち40分が「先週の数字の確認」に消え、「で、今週は何をするか」に入る頃には時間が残っていない。シートはあるのに、現場の行動は何も変わっていない。これが、KPIを設計した会社で最もよく起きている違和感です。経営層は「数字は見ているはず」と思い、現場は「報告のために埋めているだけ」と感じる。同じシートを見ているのに、噛み合っていません。
2. その問題が起きる構造
KPIシートが現場で使われない理由は、だいたい次の3つに集約されます。順番に見ていくと、いずれも「項目を足す」では解決しないことが分かります。
理由1:載っているのが「結果の数字」だけで、「行動の数字」がない。売上・粗利・達成率は、経営層が会社の健康状態を判断するための結果KPI(遅行指標)です。一方、現場が今週動くために必要なのは、訪問件数・見積提出数・新規リストへの架電数といった行動KPI(先行指標)。結果は行動の数週間あとに出ます。受注が商談開始から平均30〜45日かかる事業では、達成率を見て気づいた時にはもう手遅れ。行動KPIがないと、現場は「数字が悪い」とは分かっても「だから何をすべきか」が出てきません。
理由2:数字が古い。多くのKPIシートは、誰かが手作業で集計しています。営業事務が各拠点から数字を集め、関数で整え、シートが完成するのが週の半ば。月曜の営業所MTGには間に合わず、出てくる頃には「先週、ことによると先々週」の数字になっている。鮮度の落ちた数字は、確認の対象にはなっても、行動の起点にはなりません。
理由3:「報告のためのシート」になっている。多くのシートは、経営層への報告様式として設計されています。だから、数字を埋める欄はあっても、「次に何をするか・誰が・いつまでに」を書く欄がない。見て終わり、読み上げて終わりになる。シートが意思決定の道具ではなく、提出物になっているのが、形骸化の正体です。経営が見たい数字と現場が動ける数字は、そもそも置き場所が違います。同じ「KPIシート」でも、報告のために作ったものと、次の一手を決めるために作ったものは、項目の選び方から会議の進め方まで別物です(FIG.02)。
「報告のためのKPI」と「次の一手を決めるKPI」は、載せる数字から会議の終わり方まで違う
行ごとに、いまのシートがどちらの列に近いかを見る。右の列が週次シートの設計条件になる
| 観点 | 報告のためのKPI | 次の一手を決めるKPI |
|---|---|---|
| 使う人 | 経営層(提出先) | 拠点長と現場(自分で開く) |
| 載せる数字 | 売上・粗利・達成率などの結果指標が中心。項目は増える一方 | 行動指標が主役。結果指標は確認用に1〜2行へ圧縮 |
| 項目の数 | 全拠点共通で、30近くまで増える | 行動KPIは拠点あたり5つ以内 |
| 数字の鮮度 | 手集計で、出てくるのは週の半ば | 月曜の朝、会議の時点で先週分がそろっている |
| シートの欄 | 数字を埋める欄だけ | 差分・次の一手・担当・期限の欄がある |
| 会議の使い方 | 上から読み上げて、確認で時間が終わる | 確認は最初の10〜15分。残りで今週の一手を決める |
| 会議の終わり方 | 「数字は見た」で終わる | 誰が・何を・いつまでに動くかが、シートに書かれて終わる |
表は横にスクロールできます
3. 経営者が判断すべき論点
KPIを「動く道具」に変えるために、経営者が決めるべき論点は次の3つです。
- 経営が見る結果KPIと、現場が動く行動KPIを、それぞれ何個に絞るか(足すのではなく、捨てる判断)
- シートの更新を誰が・いつ・どこまで自動化するか(手集計のままでは鮮度は上がらない)
- 週次MTGで、数字の確認に何分、次の一手の決定に何分使うかの時間配分を変えるか
この3つを決めずに「項目を増やす」「見やすくする」だけを繰り返すと、シートは重くなるばかりで、現場の行動は変わりません。KPI改善の本丸は、数を増やすことではなく、現場が今週動ける1枚に絞り込むことです。
4. 現場で実行するための具体策
01結果KPIと行動KPIを切り分ける
まず、いま並んでいる30近い項目を、「結果(遅行)」と「行動(先行)」の2つに仕分けます。売上・粗利・達成率・解約数は結果。訪問件数・見積提出数・新規リストへの架電数・反応率は行動。この切り分けをするだけで、「現場が動かせる数字」がシートにほとんど無かったことが見えてきます。
02行動KPIを5つ以内に絞る
行動KPIは、欲張らず拠点あたり5つ以内に絞ります。「結果につながると現場が納得でき、毎週その場で数えられる」数字だけを残す。訪問・見積・架電のように、今日の動きが直接効くものを選びます。10個並べると追えなくなり、結局どれも見られません。
03週次で使うシートを「1画面・スクロールなし」に再設計する
経営報告用のシートと、現場の週次MTG用のシートを分けます。週次シートは、結果KPIは確認用に1〜2行に圧縮し、行動KPIと「次の一手」を主役に置く。スクロールせずに1画面で全体が見える状態にするのが条件です。1行の設計を具体化すると、FIG.03のようになります。
週次シートは、結果指標を上に圧縮し、行動指標ごとに「差分・次の一手・担当・期限」を書く1枚にする
上の1行で結果を確認し、下の行動KPIを左から右へ埋める。差分が出た行だけ、次の一手を会議の場で書き込む
| 行動KPI | 先週 | 目標 | 差分 | 次の一手 | 担当 | 期限 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 結果KPI 確認用 | 売上・粗利・達成率を1行で記入 | |||||
| 新規訪問件数 記入例 | 18 | 25 | −7 | リストAへ20件架電 | 営業2課 | 6/19 |
表は横にスクロールできます
記入例の数値は、列の使い方を示すための想定例で、実績を示すものではありません。
04更新を自動化し、月曜の朝に最新が出る状態にする
鮮度を上げる鍵は、手集計をやめることです。各拠点の入力元(日報・SFA・受注データ)からシートへ、関数や連携で自動集計する仕組みに変える。「月曜の朝、MTG開始時点で先週までの数字が揃っている」を運用ゴールにします。集計に毎週数時間かかっていた営業事務の手も空きます。完全自動が難しければ、まず入力フォーマットを統一するだけでも鮮度は上がります。
05週次MTGの時間配分を「確認1:決定3」に変える
シートを変えても、MTGの進め方が「上から読み上げる」ままだと元に戻ります。確認は最初の10〜15分に圧縮し、残りを「差分が出ている行動KPIに、今週どの一手を打つか」の決定に使う。決めた一手は、その場でシートの「次の一手・担当・期限」に書き込む。これを4週続けると、シートは「先週の答え合わせ」と「今週の作戦」が1枚に乗った、現場が自分から開くものになります。
差分が出た行に「次の一手」を書く前に、数字の異常をどう読むかの順番を決めておくと、会議が犯人探しに流れません(FIG.04)。
数字が悪い週は、「数字の鮮度 → 差分の場所 → 量か率か」の順に確かめてから、次の一手を決める
上の問いから順に答える。「はい」なら右(スマートフォンでは下)の対応をとり、「いいえ」なら次の問いへ進む
- その数字に、入力漏れ・集計遅れの可能性があるかはいの場合行動の議論を止め、入力元を確認する。古い数字や欠けた数字で一手を決めない
- 差分が出ているのは結果KPIだけで、行動KPIは目標どおりかはいの場合行動と結果のつながりを見直す。選んだ行動KPIが結果につながっていない可能性がある。FIG.01のツリーを拠点長と見直す
- 行動KPIの差分は、件数の不足かはいの場合今週、差分を埋める一手を決める。何を何件・誰が・いつまでにを、その場でシートに書く
- 件数は足りているのに、反応率など率が下がっているかはいの場合要因を確かめる担当と期限を決める。リストや提案内容など、率を下げている要因を翌週の会議までに確認する
問いの順番は判断の一例で、実績を示すものではありません。事業によって、行動KPIの種類や「率」に当たる指標は異なります。
5. 失敗しやすい落とし穴
- 「見えていないから」と項目を足す。KPIは増やすほど追えなくなります。使われない原因は項目不足ではないので、足すと逆効果。まず捨てる判断から入ります。
- 結果KPIだけで現場を詰める。「達成率が低い」と結果だけを叱責しても、現場は打ち手を出せません。差分が出た行動KPIに対して「次の一手」を一緒に決める場に変えます。
- シートの見た目を整えることをゴールにする。色分けやグラフを増やしても、行動は変わりません。判断軸は「今週、誰が・何を・いつまでに動くか」が書けるかどうかです。
- 経営報告用と現場用を1枚で兼ねようとする。経営が見たい粒度と現場が動く粒度は違います。1枚に詰め込むと、どちらにも中途半端になります。報告用と週次用は分けます。
明日から始める最初の一歩
- いまのシートの項目に「結果」「行動」の印を付ける行動の印が付く項目がいくつあるかを数えます。ほとんど無ければ、FIG.01の一番下の層が空いている状態です。
- 次の週次会議の前に、「次の一手・担当・期限」の3列を足すシートの作り直しを待たず、既存のシートに列を足すだけで始められます。
- 次の週次会議で、数字の確認を15分で打ち切る残りの時間で、差分が出た行動KPIに今週の一手を決め、3列に書き込みます。
6. eapとしてどう支援するか
eapがKPI運用に入るときは、新しい指標を設計するより先に、いまの項目を「結果」と「行動」に仕分け、現場が動ける行動KPIへ絞り込むところから始めます。経営層・拠点長・現場担当を集め、「どの数字を見て、どう動きたいか」を1〜2週間で言語化する。そのうえで報告用と週次MTG用のシートを分け、後者を1画面で「次の一手まで書ける1枚」に再設計します。
運用に乗せる段階では、必要に応じてグループ会社のラフノートと連携し、日報・受注データからの自動集計、拠点別シートの自動生成、差分が出た行動KPIの自動ハイライトまで巻き取ります。経営の伴走者として週次MTGの進め方そのものを「確認1:決定3」に組み替え、シートが現場で使われ続ける状態まで見届けます。
KPIは、設計して終わりではなく、現場が毎週開いて初めて意味を持ちます。見られていないシートは、無いのと同じです。