「敏感肌におすすめの日焼け止めは?」「30代男性への、5,000円以内のプレゼントは?」「子どもでも食べやすくて、たんぱく質が取れる食品は?」——少し前ならGoogleで検索していたこうした問いを、いまはChatGPTやGeminiにそのまま相談する人が増えています。検索エンジンが商品発見の入口だった時代から、AIが発見・比較・推薦までを担う時代へ。この変化は、広告や検索順位とは別のところで、静かに購買の入口を組み替え始めています。本稿では、この変化を「GEO」という言葉の解説で終わらせず、経営者・マーケティング責任者が自社の商品戦略にどう反映すべきかという視点で整理します。
Section 01購買行動の入口が、変わり始めている
敏感肌におすすめの日焼け止めは?
30代男性への、5,000円以内のプレゼントは?
子どもでも食べやすくて、たんぱく質が取れる食品は?
これらは、これまで検索窓に打ち込まれてきた問いです。キーワードを入れ、表示された記事や比較サイトを何ページも見て、自分で候補を絞り込む。その手間を、生成AIは肩代わりします。相談すると、AIは複数の商品やブランドを踏まえたうえで、理由を添えて数点にまで絞って提示してくる。ユーザーから見れば、探す作業そのものが軽くなります。米アドビの消費者調査では、買い物に生成AIを使ったことがある人が約4割(39%)にのぼり、53%が今後の利用を見込むと答えました(米国、回答者5,000人超、2025年3月)。
この動きは、消費者側だけの話ではありません。売る側の企業も動き始めています。2026年9月1日の日本経済新聞は、花王や森永製菓といった消費財メーカーが、生成AIに自社商品を正しく理解してもらうために、自社サイトの商品情報を見直す動きを報じました。花王のD2C担当者も、従来の検索エンジン向けの対策に加えて、生成AIに理解されるための対応を2026年の取り組みに挙げています(DIGIDAY、2025年12月)。「検索エンジンに評価されるための情報整備」に加えて、「生成AIに理解されるための情報整備」という新しい論点が、日本の現場でも生まれ始めているということです。
従来の購買導線は、おおよそ次のようなものでした。SNSや広告で商品を知り、Googleで検索し、比較サイトを見て、商品ページにたどり着き、購入する。人が自分の足で情報を集め、比較し、決めていく流れです。ここに、もう一つの導線が加わります。顧客が自分の課題や欲求をAIに相談し、AIが複数の商品を理解して比較し、候補を数点に絞り、そこからECや自社サイトへ遷移して購入する——という流れです。この新しい導線は、数字にも表れ始めています。英調査会社ユーロモニターによると、小売サイトへのAI経由の流入(リファラル)は2025年に前年から約300%(+304%)伸び、AI以外の流入源の伸び(約40%)を大きく上回りました(グローバル、2026年3月発表)。
違いは、比較と絞り込みを「誰がやるか」です。これまでは人が検索し、読み、選んでいました。加わる導線では、その手前をAIが引き受け、人は絞られた候補から選びます。だから企業にとっての論点は、検索結果で見つけてもらうことに加えて、AIが比較・推薦する段階で候補に入ることへ広がります。
企業側の動向:日本経済新聞「花王や森永『AIに選ばれるサイト』に チャット経由の買い物増に対応」(2026年9月1日)。
AI経由の小売サイト流入:ユーロモニター インターナショナル「AI-driven Referrals Grew Over 300% in 2025」(2026年3月/グローバル・前年比+304%)、アドビ Adobe Analytics(米国小売サイト・2025年年末商戦の生成AI経由流入は前年同期比+693%/2026年1月発表)。
図は購買導線の概念を示すもので、特定企業のデータではありません。数値は各社の公表値。
Section 02SEOとGEOは、似ているようで目的が違う
この文脈で語られ始めたのが、GEO(Generative Engine Optimization)という言葉です。SEOと語感が似ているため、「SEOのAI版」と受け取られがちですが、この理解は本質を外します。両者は、最適化する相手も、目的も、対象の単位も違います。
SEOが相手にするのは検索エンジンで、最適化の単位はWebページです。あるキーワードに対して、どのページを上位に表示させるか。GEOが相手にするのは生成AIで、そこで問われるのはページ単体の出来ではありません。AIは、企業・ブランド・商品・用途・対象者・価格・特徴・第三者評価・FAQ・レビュー・比較情報といった要素を、サイトの内外を横断して読み取り、意味を組み立てます。ひとつの綺麗なページよりも、複数の情報源にまたがった、商品・ブランド情報の構造そのものが効いてくるということです。
だからGEOの要点は、「Webページの最適化」ではありません。商品・ブランド情報の構造の最適化です。ここを取り違えて、既存のSEO施策の延長で「AI向けにもう一枚ページを足す」だけで済ませると、たいてい成果につながりません。ページを足す話ではなく、自社の商品情報がAIから見てどう理解されるかを設計し直す話だからです。
SEOを否定する表ではありません。左は今も有効で、右が新しく加わったという読み方が正確です。決定的に違うのは最適化の単位——ページ単位から、商品・ブランド・情報構造の単位へ。ここがGEOをSEOの延長で捉えられない理由です。
Section 03AIに必要なのは「情報量」より「判断材料」
では、AIに正しく理解され、推薦の候補に入るには何が要るのか。ここで多くの企業がつまずきます。商品ページには言葉が並んでいるのに、AIから見ると比較のしようがない、という状態が起きるからです。
よくある商品ページの表現を思い浮かべてください。「高品質です」「素材にこだわっています」「多くのお客様に選ばれています」「独自技術を採用しています」。人が読めば好印象を持つかもしれません。ですが、AIがこれを他社商品と並べて比較しようとすると、手がかりになりません。「高品質」は、何と比べて、どの指標で高いのかが書かれていないと、比較に使えないからです。情報の量は多くても、判断の材料になっていない。
誤解を避けたいのは、これは「感情に訴えるコピーが不要になる」という話ではないことです。人の心を動かし、買う理由をつくるのは、これまで通りコピーやブランドの仕事です。変わったのは、その手前に「AIという読み手」がもう一人増えたこと。人を動かすコピーと、AIが判断するための事実情報。この両方を、同じ商品情報の中に持たせる必要が出てきた、ということです。片方だけでは、人には響いてもAIに選ばれない、あるいはAIには理解されても人が買いたくならない、という取りこぼしが起きます。
Section 04AIに選ばれる状態をどう設計するか — AI Recommendation Framework
ここまでを、実際に手を動かせる形に落とします。eapでは、AIに選ばれる状態を「一度整えて終わり」ではなく、観測しながら回し続けるものと捉えています。そのための5つの観点を、AI Recommendation Framework として整理しました。技術的なSEOの話ではなく、商品戦略・ブランド戦略まで含む設計の枠組みです。
5つは順番に一度たどって終わりではなく、観測(05)で得たAIの反応を、次の問い(01)の見直しに戻す循環です。濃淡は循環上の位置を示すだけで、優劣ではありません。
Question顧客はAIに何を聞くのか
自社の商品カテゴリで、顧客がAIにどんな相談をするのかを洗い出す。その問いに答えられる情報を、そもそも自社が持っているかを確認するところから始めます。
Data商品情報は整理されているか
対象者・課題・利用シーン・仕様・価格・成分や素材を、AIが読み取れる構造で明示する。印象を語る言葉ではなく、比較に使える事実として並べ直します。
Value誰に、どんな状況で、なぜ選ばれるのか
「良い商品です」ではなく、どんな人の、どんな場面の、どの課題に効くのかを具体化する。選ばれる理由を、抽象語から事実へ翻訳する工程です。
Authority自社の外まで含め、情報に一貫性があるか
自社サイト・ECモール・レビュー・第三者評価・PR記事の間で、商品の説明がぶれていないか。AIはサイトの内外を横断して読むため、外の情報との整合が効いてきます。
MeasurementAI上で実際に推薦・引用されているか
ChatGPTやGeminiに実際に相談し、自社が候補に挙がるか、どう説明されるかを定点で観測する。その結果を、次にどの問いへ答えるべきかの見直しに戻します。
この5つを一度で完璧に仕上げる必要はありません。むしろ、Step05の観測から始めて「いま自社がAIにどう説明されているか」を知るところから入ると、どの情報が足りていないかが見えてきます。検索順位のように外から与えられる指標を待つのではなく、自分でAIに聞いて確かめられる——これがGEOの実務的にやりやすいところでもあります。
Section 05SEOが終わるわけではない
ここで、冷静な線を引いておきます。AIが購買に入り込むと聞くと、「SEOはもう不要になるのか」と受け取られがちですが、そうではありません。生成AI経由の流入は、いまの時点では既存の検索を置き換える規模には達していません。Web解析のSimilarwebによれば、2025年6月時点で生成AI経由のサイト流入は約11.3億回、対して検索大手Google経由は約1,910億回でした(グローバル・主要サイト、2025年7月報道)。AIの入口は急拡大していますが、まだ検索全体の1%に満たない大きさです。多くの顧客は、依然としてGoogleで検索し、記事を読み、比較サイトを見ています。
いま起きているのは、代替ではなく追加です。既存のチャネルに、AIという新しい入口が一つ加わったという捉え方が実態に合います。しかも両者は無関係ではありません。生成AIは回答をつくる際に、Web上の情報を参照します。つまり、検索エンジンに正しく評価される土台があることは、AIに正しく理解されるための前提にもなる。SEOで積み上げてきた情報整備は、GEOの下地としてそのまま生きます。国内の調査でも、生成AIを日常的に使う人の9割近く(87.4%)が、AIの回答を見たあとに検索エンジンで確かめ直しているという結果があります(PLAN-B、2026年6月・日本・生成AIを日常的に利用する層が対象)。AIと検索は、いまのところ奪い合うより、補い合って使われています。
だから経営判断としては、「SEOをやめてGEOに乗り換える」ではありません。SEOで築いた土台の上に、AIという読み手を想定した情報設計を重ねる。既存の投資を捨てずに、入口が一つ増えたぶんだけ、商品情報の作り方を拡張する——という順序が現実的です。煽りに乗って土台を崩す必要はありません。
Section 06マーケティングは「人に伝える」だけではなくなる
少し引いて見ると、この変化はマーケティングの前提を一つ動かしています。これまでマーケティングは、基本的に「人に伝える」仕事でした。人が理解し、共感し、買いたくなるように、言葉と体験を設計する。読み手は、いつも人間でした。
そこに、AIという読み手が加わります。AIは、人のように雰囲気で汲み取ってはくれません。書かれた事実を、書かれたとおりに読みます。だから、人に響かせるための表現と、AIに正確に理解させるための事実を、両方そろえる必要が出てくる。伝える相手が「人」から「人とAI」へ広がった、と言い換えてもいいと思います。
この視点に立つと、企業が「AIに選ばれない」原因は、Webサイトだけにあるとは限らないことが見えてきます。商品ポジショニング、ブランド戦略、商品情報、ECモールの商品ページ、自社サイト、SEO、コンテンツ、PR、レビュー、データ分析——これらがそれぞれ別の担当・別の思想でつくられ、バラバラになっていると、AIから見たときにブランドや商品の意味が像を結びません。人間なら「まあ同じ会社だろう」と補完してくれますが、AIは書かれた情報の一貫性で判断します。選ばれない原因は、一枚のページの出来ではなく、情報全体の整合にあることが多いのです。
Section 07eapの考え方と、支援できる範囲
だとすると、打ち手は「GEO対策のページを一枚つくる」では足りません。市場と顧客の理解から、ブランド・商品戦略、ECマーケティング、Web・コンテンツ、SEO・GEO、そして分析・改善まで——本来つながっているべきこれらを、一本の線として設計し直すことが必要になります。バラバラにやると、AIから見た意味もバラバラになるからです。
eapは、この一気通貫を一つの流れとして扱います。市場・顧客分析でAIに聞かれる問いを押さえ、ブランド・商品戦略で選ばれる理由を定め、ECマーケティングとWeb・コンテンツで情報を整え、SEO・GEOで検索エンジンと生成AIの両方に届く形にし、分析・改善で「実際にAIに推薦されているか」を観測して次に戻す。本稿のAI Recommendation Frameworkは、この流れを商品情報の側から見た地図でもあります。
これは、流行りの施策を追う話ではありません。読み手が人からAIへ広がった時代に、商品とブランドの意味をどう設計し直すかという、マーケティングと商品戦略そのものの話です。eapのパーパス「可能性を、実現する力に変える」は、まだ言葉になっていない自社の強みを、人にもAIにも伝わる事実に翻訳していくこの領域にも、そのまま重なります。まずは「自社がいまAIにどう説明されているか」を一度確かめてみる——考え方としては、そこが入口になります。
・日本経済新聞「花王や森永『AIに選ばれるサイト』に チャット経由の買い物増に対応」2026年9月1日
・DIGIDAY[日本版]「花王 加藤義久氏『AI時代の検索と共存し、D2C体験を進化させる』」2025年12月31日
・Euromonitor International「AI-driven Referrals Grew Over 300% in 2025」2026年3月(グローバル)
・Adobe / Adobe Analytics 発表資料 2026年1月・2025年3月(米国小売サイトのトラフィック分析/消費者調査 回答者5,000人超)
・Similarweb(TechCrunch報道、2025年7月)2025年6月のAI経由流入とGoogle検索流入の比較
・PLAN-B「生成AIとの対話による購買行動調査 2026」2026年6月(日本・回答者500名・生成AIを日常的に利用する層が対象)