プロジェクト概要
- Client|クライアント
- PLANT DATA株式会社
- Project|プロジェクト
- AI生育状況自動調査システムの構想・要求・要件定義〜画像解析技術の調査・PoC(実現可能性検証)〜次フェーズの技術課題整理
- Industry|業界
- アグリテック / 植物生体情報の計測・分析プラットフォーム
- Service|支援領域
- AI企画・要求・要件定義 / AI PoC・技術検証 / プロジェクトマネジメント
- Period|支援期間
- 約2ヶ月(要求・要件定義〜技術検証報告)
- Team|eap担当
- 株式会社eap(AI企画・要求・要件定義/プロジェクトマネジメント)。技術検証はeapと連携するAIエンジニアチームが実施
トマトの生育調査は、葉の長さや果実数などを担当者が週に一度、テープメジャーと目視で計測する手作業で、計測できる個体数に限りがあり、収穫量の予測も担当者の経験と勘に依存していた。画像とAIで自動化する構想はあったが、何をAIで解くのか、どんなデータと技術が必要かが定まっていなかった。
現行の調査業務を6つの計測項目に分解し、項目ごとに目的・技術的な課題・解決の方向性を整理してAIの要求・要件定義書にまとめた。撮影動画から計測値に至る処理を8つの技術要素に分け、先行研究と公開モデルを調査したうえで、生産現場の実データで仮検証を実施。結果を○△×で評価し、次フェーズの課題を整理した。
生育調査の業務がAIの要件として言語化され、必要なデータ・撮影条件・アノテーション方針が定まった。8つの技術要素それぞれについて「現時点でできること」と「解決すべき課題」が、実データによる仮検証と先行研究の調査で明確になり、本開発(PoC・モデル開発)へ進むための技術的な見通しと論点が判断材料として揃った。
経験と勘、そして人手に頼ってきたトマトの生育調査を、続けられる形に変える必要があった。
PLANT DATA株式会社は、植物の生体情報を計測・分析・活用するためのプラットフォームを提供する企業です。植物に触れずに光合成機能を評価するクロロフィル蛍光計測、光合成・蒸散のリアルタイム計測、作物の生育状況を週単位で可視化する生育スケルトンなど、「植物の声を聴く」ための計測技術を、愛媛大学の研究者と連携しながら事業化してきました。対象はトマトをはじめとする施設園芸の作物です。
トマトの生産現場では、収穫量の予測や栽培判断のために「生育調査」が行われています。葉の長さと幅、果実数と花数、葉の枚数、開花段の高さ、茎の太さ、伸長という6つの項目を、担当者が週に一度、テープメジャーと目視で計測する手作業です。1ヘクタール規模の圃場でも、人手で計測できるのは8〜32個体程度。この限られたサンプルと、積算温度や天気予報などの情報を組み合わせ、担当者が経験と勘で収穫量を予測しているのが実情で、予測の誤差は小さくありません。
誤差の影響は現場の外にも及びます。事前の販売契約では、契約量に収穫量が届かなければ採算を度外視してでも供給する義務が生じるため、生産者は控えめな量で契約を結ばざるを得ず、機会損失やフードロスにつながっています。手作業である以上、毎日実施できる業務量ではなく、調査漏れも起こり得ます。より多くの個体を継続的に計測できれば、収穫予測と栽培判断の精度を上げられる。同社はこの課題に対し、圃場を撮影した映像とAIモデルで生育調査そのものを自動化する構想を持っていました。ただし、「何をAIで解くのか」「どのようなデータと技術で実現できるのか」はまだ定まっていない。eapが参画したのは、この構想を要件と検証計画に落とし込む段階からです。
難しさは「画像で認識できるか」ではなく、認識した結果を現場が使う計測値に変換できるか。
ご相談の出発点は「生育調査をAIで自動化したい」でした。画像から果実や葉を認識するAIには、すでに多くの研究や実装があります。しかし要件を整理していくと、このプロジェクトの難しさは「認識できるか」ではないことが分かってきました。
現場が必要としているのは、「ここに葉がある」という認識結果ではなく、「その葉は何cmか」「開花段はどの高さか」「今週、新しく着果した果実は何個か」という計測値です。密集した植物体のなかで個々の葉を分離し、葉の先端と根元を特定し、画像上の長さを実際の寸法に換算する。花房と果房を区別し、上から数えて何段目かを判定する。つり下ろし作業の前後で高さの基準が変わっても、伸長を追い続ける。撮影は夜間で、可視光とクロロフィル蛍光の2種類の映像があり、カメラの高さによっては植物体が画角に収まらないこともある。しかも、学習に使えるアノテーション済みデータは存在しませんでした。認識と計測のあいだにあるこの距離を、どの技術でどこまで埋められるのかを見極めることが、本質的な課題でした。
AIから入らず、現場の調査業務を分解し、何をAIで解くのかを先に決める。
eapが最初に行ったのは、AIモデルの選定ではなく、現場で行われている生育調査業務の分解でした。6つの計測項目それぞれについて、何のために測っているのか、どの部位をどう測っているのか、その値が収穫予測や栽培判断のどこに使われるのかを、先行して行われていた要件調査の結果や生産者の声も引き継ぎながら整理しました。
そのうえで、プロジェクト全体を「①プロダクトの要件定義」「②モデル開発・検証」「③プロダクション」の3フェーズで設計し、本フェーズは①と②の前半、すなわち要求・要件の確定と、開発内容を決めるための技術検証と位置付けました。実現可能性を早い段階で見極め、必要であれば別の課題や解決策に方向転換できるようにする。リアルタイム性や規模より、まず「実用に耐える形で成立するか」を確認することを優先しています。
撮影した動画から計測値に至る処理を8つの技術に分け、実データで一つずつ確かめる。
撮影した動画から、現場が使う計測値に至るまでの処理は、一つのAIモデルで完結するものではありません。eapは処理の流れを8つの技術要素に分け、それぞれ「何を実現するための技術か」「今回何を検証したか」「何が分かったか」を整理しました。検証の実装はAIエンジニアチームが担い、eapは検証項目の設計と結果の評価・整理を担っています。
業務をAIの要件に翻訳し、検証の結果を次の判断に使える形で残す。
「AIで自動化する」で終わらせず、業務を要件に翻訳し、検証の結果を次の判断に使える形で残す。
ここでは、実際のプロジェクトで作成した支援アウトプットの一部をご紹介しています。機密情報・取引先名・個人名等を除き、公開用に再編集しています。
実データによる検証結果(一部)。うまくいった箇所も、課題が残った箇所も、そのまま次の判断材料にする。
以下は、本プロジェクトの技術検証で生産現場の映像に各手法を適用した結果の一部です。成果報告書の掲載画像を公開用に再構成しています。
8項目の多くは「課題あり」。それ自体が、次フェーズへ進むための判断材料になった。
検証の目的は、うまくいくことを示すことではなく、本開発に進む前に「どこに、どれだけの技術課題があるか」を実データで把握することでした。8項目の結果を、それぞれの目的と併せて一覧にしています。
完成したシステムではなく、本開発へ進むための技術的な見通しと論点が残った。
本フェーズの成果は、動くシステムではありません。人の手で行われてきた生育調査がAIの要件として言語化され、必要なデータと技術が特定され、主要な技術要素の実現可能性と課題が実データで確認されたこと。つまり、本開発に投資するかどうか、するなら何から着手するかを判断できる材料が揃ったことです。
6つの計測項目それぞれについて、計測の目的、画像から取得すべき情報、技術的な課題、解決の方向性、生産者側の許容条件が一覧化され、AI要求・要件定義書としてまとまりました。「特定の1枚ではなく茎頂から4段目までの葉を測る」「果実は高さ別のヒストグラムとして扱う」「開花段の高さは統計処理で代替する」など、AIで解きやすい形に業務を置き換える判断が、要件として残っています。
可視光とクロロフィル蛍光、カメラ高さ別という撮影データの構造が整理され、学習用アノテーションが存在しないという前提が明確になりました。公開データセットの調査を経て、物体検出・キーポイント・セグメンテーションの3方式について、アノテーションの定義、6段階のプロセス、アノテーター・レビュアー・プロジェクトマネージャーの体制、ツールの選定理由、作業者向け・レビュアー向けのマニュアルまで整備されています。
パノラマ化、デプス推定、距離キャリブレーション、処理対象以外の除外、キーポイント抽出、物体検出、セグメンテーション、クリップ検出のそれぞれについて、目的・実施結果・課題が整理されました。キーポイント抽出は前提が揃わず先行研究の調査にとどめ、それ以外は実データで仮検証しています。多くの項目は△ですが、その理由(解像度不足、学習データ不足、撮影距離)が特定されており、次に何を改善すべきかが分かる状態になっています。
モデルの再学習、より高品質なデプス推定やステレオ方式の検証、パノラマ化の改善策、キーポイント定義とアノテーションの開始、枝と茎の境界定義といった次フェーズの課題が成果報告書に整理されました。PoCから処理ロジックとモデルの改善へ進むための計画の土台が、判断材料として残っています。
※ 項目数・技術要素数・方式数は、本プロジェクトのAI要求・要件定義書および成果報告書にもとづく実数です。収穫予測精度や作業時間の改善といった定量成果は、本フェーズが要件定義・技術検証の段階であるため発生しておらず、掲載していません。
- 「AIで自動化する」から入らず、現場の生育調査業務を6項目に分解し、目的と計測方法から整理した。
- 画像で「認識できること」と現場が使う「計測値」の距離を課題の中心に置き、処理を8つの技術要素に分けて検証計画を設計した。
- 学習データが存在しないという前提を早期に確認し、少数データ・学習不要のモデルを中心に候補を絞ることで、短期間で実現可能性の見通しを得た。
- うまくいかなかった検証も隠さず、原因と次の打ち手まで整理して報告した。
- アノテーションの設計とマニュアルまで整備し、次フェーズにそのまま着手できる状態を残した。
AIモデルをつくることではなく、栽培現場で取得したい情報から逆算し、必要なデータと技術的な課題まで整理できた。
「単にAIモデルをつくることが目的ではなく、実際の栽培現場で取得したい情報から逆算し、必要なデータや撮影方法、技術的な課題まで整理できたことは、今後の開発を進めるうえで大きな前進になったと感じています。」
これまで農業の現場では、生育状況の把握や収穫量の予測など、人の目や経験に依存する部分が多くありました。
今回のプロジェクトでは、生育調査という現場業務をどのように画像やAIによってデータ化・自動化できるのか、要件整理から技術検証まで一緒に進めていただきました。
単にAIモデルをつくることが目的ではなく、実際の栽培現場で取得したい情報から逆算し、必要なデータや撮影方法、技術的な課題まで整理できたことは、今後の開発を進めるうえで大きな前進になったと感じています。
複数の画像解析技術を実データで検証することで、実現可能な部分と今後さらに検討が必要な部分を具体的に把握することができました。
AI開発の成否は、モデルより先に「何を解くか」の定義で決まる。
モデルの前に、「何を解くか」を決める
AI開発のご相談は、「このモデルで何ができますか」から始まることが少なくありません。しかしeapは、最初にモデルの話をしません。現場で誰が、何のために、何をどう測っているのか。その値が、収穫予測や栽培判断のどこに使われているのか。ここが整理されていないと、精度の高いモデルができても現場で使えない、という結果になります。
今回も、6つの計測項目を一つずつ分解し、「AIで解きやすい形に業務を置き換えられないか」を生産者の許容条件と照らし合わせながら要件にしました。特定の1枚の葉を探すのではなく茎頂から数段分を測る、開花段の高さは統計的に扱う。こうした置き換えの判断こそ、要件定義の中身です。
うまくいかない検証は、失敗ではなく判断材料
8項目のうち多くが△、1項目は未検証という結果を、そのまま報告しています。PoCの目的は成功を示すことではなく、本開発に進む前に技術的なリスクを可視化することだからです。「解像度が足りない」「学習データがない」「カメラが近すぎる」と原因まで特定できていれば、次フェーズでやるべきことは明確になります。
逆に、この段階で結果を良く見せてしまうと、本開発で行き詰まったときのコストは桁違いに大きくなります。eapが要件定義とPoCを本開発から切り分けて設計するのは、このためです。
コンサルティングとエンジニアリングを、同じテーブルで
本プロジェクトでは、eapがAI企画・要求・要件定義・プロジェクトマネジメントを担い、技術検証はAIエンジニアチームと連携して進めました。業務側の要件と技術側の制約を同じテーブルで突き合わせ、「この項目は統計処理で代替できるか」「この精度で現場は使えるか」を都度判断する。この往復があることで、要件は机上のものにならず、検証は目的を見失いません。
eapのAI支援は、モデルを作って納品することではなく、事業と現場の課題から逆算してAIの要件を定め、実データで実現可能性を確かめ、投資判断の材料を揃えるところまでを一体で行います。
アノテーションとモデル学習へ。次フェーズで解くべき課題は特定されている。
本フェーズで整理された次の課題は明確です。キーポイントの定義を定めてアノテーションを開始すること。生産現場の画像で物体検出モデルを再学習し、セグメンテーションモデルはアノテーションを増やして精度を上げること。より高品質なデプス推定モデルやステレオ方式を試し、距離の測り方と評価方法を確定すること。パノラマ化は色付き動画や縦方向の合成、別手法との比較で改善を図ること。そして、枝と茎の境界のように定義が必要な事項は、栽培の専門家と連携して決めていくこと。
これらは成果報告書に「今後の検討事項」として整理され、PoCの実施から処理ロジックとモデルの改善へ進むための計画の土台になっています。eapのAI支援は、「AIで何ができるか」がまだ見えていない構想段階からご相談いただけます。現場の業務を要件に翻訳し、実データで確かめ、投資判断の材料を揃える。この進め方は、農業に限らず、人の目と経験に頼る計測・判定業務を抱える現場に共通するものです。








