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AI / セキュリティ

機密情報をChatGPTに入れて大丈夫?
「禁止」は、答えにならない。

「社員が勝手にChatGPTを使い始めている」「議事録を要約させたいが顧客名が入っている」。生成AIの業務利用をめぐる相談が増えています。無料版と法人向けプランのデータの取り扱いの違いから、「学習されない=安全」ではない理由、シャドーAIを生まない環境とルールの作り方までを整理します。

2026.08.14 Read 10 min by eap editorial
生成AI セキュリティ シャドーAI
Key Points
  • 無料版・個人向けプランと法人向けプランではデータの取り扱いが別物。2026年8月時点の公式情報では、主要4社とも法人向けは業務データを既定でモデル学習に使わない
  • ただし「学習されない=安全」ではない。アカウント管理・データ保持・外部共有、そして既存のアクセス権限の問題は、学習利用の有無とは別に残る
  • 全面禁止は利用をゼロにするのではなく、見えなくする(シャドーAI)。会社が管理できるAI環境と、情報の3段階分類が現実解

1. 「ChatGPTに会社情報を入れて大丈夫?」という疑問

この疑問に一言で答えるなら、「どの契約形態で使い、どの情報を入れるかによる」となります。論点は2つあります。1つ目は、入力した内容がAIモデルの学習に使われるかどうか。学習に使われる設定のまま機密情報を入力すると、その情報が自社の管理外でモデル改善に利用される可能性があります。2つ目は、学習に使われないとしても、データがどこに保存され、誰がアクセスでき、いつまで残るのか。世の中の解説の多くは1つ目だけを扱いますが、実務で事故が起きるのはむしろ2つ目の領域です。

まず押さえるべきは、同じ「ChatGPT」でも無料版・個人向けプランと法人向けプランでは、データの取り扱いがまったく違うという点です。2026年8月時点の各社公式情報では、次のように整理できます。

  • ChatGPT(OpenAI)——個人向けは会話が既定でモデル学習に利用される(設定でオプトアウト可能)。Business / Enterprise は既定で学習に利用せず、SSOや管理コンソール、Enterprise では監査ログ・保持期間の設定に対応
  • Claude(Anthropic)——個人向けは学習利用を許可するかを利用者が選択する方式(許可時のデータ保持は最大5年)。Team / Enterprise・API は既定で学習に利用しない
  • Gemini(Google)——個人向け無料版は人間のレビュアーによる確認があり、公式ヘルプが「機密情報を入力しないでください」と明記。Google Workspace 版は許可なくドメイン外のモデル学習に使われず、人間レビューもない
  • Microsoft 365 Copilot——プロンプト・応答・社内データを基盤モデルの学習に利用しない。Microsoft 365 の既存の契約・権限・コンプライアンス体系がそのまま適用される

共通する構図はシンプルです。無料版・個人向けは「本人の設定次第」で入力内容が学習に使われうるのに対し、法人向けは業務データを既定でモデル学習に使わないことを各社が明示しています。つまり「ChatGPTは危険か」という問いの立て方自体が粗すぎるのです。個人アカウントの無料版に顧客情報を貼り付けるのと、会社が契約・管理する法人環境で使うのとでは、リスクの構造が別物です。なお、この分野は名称も仕様も頻繁に変わります(ChatGPTの中小企業向けプランも2025年8月に「Team」から「Business」へ改称されました)。契約時は必ず最新の公式ドキュメントを確認してください(記事末尾に各社の公式情報をまとめています)。

2. 「学習されない=安全」ではない

ここで多くの企業が誤解する点があります。「法人版は学習に使われないから安全」という理解は、半分しか正しくありません。モデル学習に使われないことは重要な前提ですが、それはセキュリティの一部でしかありません。学習に使われなくても、退職者アカウントの放置、削除後も一定期間残るデータ保持、会話の共有リンクによる意図しない公開、そして個人情報や顧客秘密情報をめぐる契約・法律上の整理は、学習利用の有無とは別に存在するリスクです。

そして最も見落とされがちなのが、既存のアクセス権限の問題です。生成AIをGoogle DriveやSharePointなどの社内データと連携させると、AIは「そのユーザーが閲覧権限を持つ情報」を参照して回答します。仕組みとしては正しい挙動ですが、多くの会社では「とりあえず全員に共有」のまま放置されたフォルダが大量にあります。たとえるなら、倉庫には鍵が掛かっている。しかし社員全員が合鍵を持っているという状態です。

Figure — Hidden Permission Problem
AIは権限を破らない。放置された権限の問題を「見える化」する
倉庫には鍵が掛かっている。しかし、社員全員が合鍵を持っている。 = 共有設定がゆるいまま放置された社内フォルダ・ドライブ AI導入前 AI導入後 情報は散らばり、探すのに時間がかかる 誰も倉庫の奥まで探しに行かない 「見つけにくさ」が事実上の保護に 守られているのではなく、偶然漏れていないだけ AIが社内情報を横断検索する 権限がある情報には数秒で到達 放置された権限のゆるさが表面化 給与・評価・契約フォルダが検索一発で出てくる POINT 導入前にやるべきは、AIの禁止ではなく既存の共有権限の棚卸し

これまで問題が表面化しなかったのは、誰も倉庫の奥まで探しに行かなかったからにすぎません。AIは情報を探す能力が人間より桁違いに高いため、「見つけにくいから守られていた」情報を簡単に表面化させます。これはAIが権限を破るという話ではなく、放置されてきた権限設定の問題をAIが顕在化させるという話です。実際、マイクロソフト自身が「生成AIは過剰共有(オーバーシェアリング)の問題とリスクを増幅する」と公式ドキュメントで注意喚起し、Copilot導入前に権限を整備する手順を公開しています。

3. 経営者が判断すべき論点

「使うか、禁止するか」の前に、経営者が押さえるべき論点は3つです。

  • 生成AIを「使うリスク」と「使わないリスク」の両方をテーブルに載せているか。使うリスクだけを見て禁止するのは、片側だけの意思決定になっていないか
  • 禁止した場合に起きる「シャドーAI」——社員が個人アカウントで隠れて使う状態——を、自社の実態として直視しているか
  • 「全面禁止か全面解禁か」の二択をやめ、会社が管理できる環境と情報の機密度に応じたルールに投資する準備があるか

使わないことのコストは、請求書が来ないため見えにくいものです。仮に社員20人の会社で、1人あたり情報を探す・資料を確認する時間が1日30分あるとすると、20営業日で月200時間。人件費を時給5,000円と仮定すれば月100万円相当の時間が「探す」ことに使われている計算です。これは説明用の仮定であり、「AIを入れれば月100万円削減できる」という意味ではありません。ただ、導入費だけを見て「人が情報を探している時間」という見えないコストを見ないのは、天秤の片側が空のままの判断です。

Figure — Use vs. Not Use
生成AIを「使うリスク」と「使わないリスク」を同じテーブルに載せる
生成AIを業務利用する 生成AIを利用しない 業務効率 検索・要約・整理が短時間で回る ただし検証の手間は残る 従来のまま 人力の検索・読み込みが続く 情報検索 質問すれば数分で到達 権限設計が前提 詳しい人に聞く フォルダを掘るに依存 属人化 情報が引き出しやすくなり 緩和の方向へ 個人の記憶と経験に 依存し続ける コスト 利用料+ルール整備・教育の 初期コスト 支出ゼロに見えるが 探す時間という見えないコスト セキュリティ 管理された環境なら統制可能 設計を怠ればリスク AI経由の経路はないが 「安全」とは限らない シャドーAI 公式の受け皿があれば 発生しにくい 禁止するほど水面下で 発生しやすい 将来性 活用ノウハウが 社内に蓄積する 生産性差・採用面で 徐々に不利に

どちらの列にもリスクとコストがあります。重要なのは、「利用しない」列のコストは請求書が来ないため見えにくいこと。そして禁止の最大の副作用がシャドーAIです。会社がAIを禁止した結果、社員が個人スマートフォンの無料版に顧客とのやり取りを貼り付けて返信文を作る——「学習利用がオンかもしれない個人環境」に「会社が把握できない形」で機密情報が流れる、最も筋の悪い状態が生まれます。全面禁止は利用をゼロにするのではなく、利用を見えなくします

4. 現場で実行するための具体策

方針はシンプルです。(1) 会社が契約・管理する法人向けAI環境を用意し、(2) 情報の機密度に応じて「何を入れてよいか」のルールを決め、(3) 社員に周知して公式環境に利用を寄せる。統制と活用は対立概念ではなく、管理された環境があって初めて安心して活用に踏めます。実行は次の4ステップです。

Step 01会社管理のAI環境を用意する

法人向けプランを会社として契約し、アカウントは会社が発行・管理します。SSO(会社のIDでログインさせる仕組み)を使えば、退職時のアカウント停止も既存の入退社フローに乗ります。「会社が管理する環境で使えばいい」という安全な受け皿を作ることが、シャドーAI対策の本丸です。取り締まりの強化では、隠れた利用は減りません。

Step 02情報を3段階に分類する

複雑な規程は運用されません。最低限、社内の情報を3段階に分けるところから始めるのが実践的です(下図)。この3段階はあくまで出発点で、実際の線引きは各社が顧客と交わしている契約、業界の規制、法務・セキュリティ要件によって変わります。自社の契約書にAI利用の制限条項がないかは、必ず確認してください

Figure — 3-Level Classification
情報の機密度に応じて「何を入れてよいか」を3段階で決める
LEVEL 3 重要機密情報 パスワード・APIキー・決済情報・機微な個人情報・契約でAI投入が禁止された顧客情報 生成AIへの直接入力を 原則禁止 LEVEL 2 社内情報 議事録・営業資料・社内マニュアルなど、社外秘だが日常業務で扱う情報 会社管理下の法人向け AI環境のみ利用可 LEVEL 1 公開情報 Webサイト・プレスリリース・公開済み資料など、すでに外に出ている情報 承認された生成AIで 利用可 分類の線引きは各社の契約・法規制・セキュリティ要件で変わる。この3段階は出発点。

LEVEL 2(社内情報)の扱いが運用の分かれ目です。個人アカウントへの入力は禁止、会社管理下の法人環境でのみ利用可——このルールが機能すれば、日常業務の大半をAIに乗せながら、機密情報の流出経路を統制できます。

Step 03連携する社内データの共有権限を棚卸しする

生成AIをGoogle DriveやSharePointと連携させる前に、「全員に共有」のまま放置されたフォルダがないかを確認します。給与・評価・契約など機微な情報のフォルダから優先的に。この棚卸しはAI導入の準備であると同時に、それ自体が自社のセキュリティ改善になります。

Step 04ルールを1枚に整理し、周知と見直しを回す

情報の分類と利用ルールを1枚に整理して全社員に周知し、迷ったときの相談窓口とルール違反時の対応を決めます。各サービスの仕様は変わり続けるため、公式ドキュメントを定期的に確認する担当と頻度もセットで決めておきます。ここまでできて初めて、営業の「過去の提案資料と商談議事録から次回提案の論点を整理して」、経営者の「直近3カ月の経営会議議事録から未解決事項・担当者・期限を一覧化して」といった使い方——社内情報を探し、理解し、整理するインターフェースとしてのAI活用——に安心して踏み込めます。

5. 失敗しやすい落とし穴

  • 「法人版なら安全」と思い込む。学習に使われないことと、リスクがゼロであることは別です。アカウント管理・データ保持・共有権限は、法人版でも自社で設計する必要があります。
  • 禁止だけして受け皿を作らない。全面禁止は利用を見えなくするだけで、ゼロにはしません。「うちは禁止しているから大丈夫」という会社ほど、実態を確認すると個人利用が見つかります。
  • 権限を放置したまま社内データと連携する。AIは既存権限のゆるさを顕在化させます。連携の前に棚卸しが先です。
  • 導入費だけで判断する。「人が情報を探している時間」という見えないコストを天秤に載せず、利用料だけを見て見送るのは片側だけの判断です。
  • 一度作ったルールを放置する。プラン名称もデータの取り扱い仕様も年単位で変わります。ルールは作って終わりではなく、公式情報の定点確認とセットです。

6. eapとしてどう支援するか

eapが生成AI活用の支援に入るときは、ツールの導入からではなく、業務の整理から始めます。どの業務のどの情報を、どのレベルに分類し、どのAI環境で扱うか。「どのAIを導入するか」だけでなく、「どの業務を、どう変えるか」から一緒に設計します。利用ルール・ガイドラインの策定、社内データとの連携設計、AIを活用した業務改善、必要であればシステム開発まで、グループ会社のラフノートと連携して実装まで巻き取ります。

「生成AIを使わないこと」と「情報が安全であること」は同義ではありません。同様に、「モデル学習に利用されないこと」と「セキュリティリスクがゼロであること」も同義ではありません。リスクは「使うか、使わないか」ではなく、「会社が管理できているか、できていないか」に宿ります。

参考(2026年8月時点の各社公式情報):OpenAI「Enterprise privacy」「How your data is used to improve model performance」、Anthropic「Is my data used for model training?」「Updates to Consumer Terms」、Google「Gemini アプリ プライバシー ハブ」「Google Workspace の生成 AI に関するプライバシー ハブ」、Microsoft「Data, Privacy, and Security for Microsoft 365 Copilot」「Microsoft Purview data security for generative AI」。仕様は変更される可能性があるため、導入時は必ず最新の公式ドキュメントをご確認ください。

CTA — Free consultation
自社のAI利用ルール、60分で論点整理しませんか。
いま社内で起きている利用実態の把握から、情報の3段階分類、法人向けプランの選び方まで。生成AIの導入がこれからの会社も、すでに社員が使い始めている会社も歓迎です。
CTA — End-to-end
ルール策定から実装まで、Ruffnoteと連携で完結。
ガイドライン策定、権限の棚卸し、社内データとAIの連携設計、業務改善の実装まで、グループ会社ラフノートと組んで巻き取ります。

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